
天の川がはっきりと見えるくらい、
今夜は清んだ空気だった。
むさしさんは浮かぶ天体を見ながらつぶやいた。
『
もうあんな思いはごめんだ。力を、もっと力を。』
時として力を無心に求める事は危険を伴う。
しかし、今は最低限の力すら自分には無い事を痛感したのだった。
それからのむさしさんの行動は早かった。
かけこんだ街にあるファイターズギルドとメイジギルドに入会し
(メイジギルドは仮入会だったが)
数々のダンジョンに分け入っては、自らを鍛え上げていった。
時には火を吐く化け物と戦い

思いっきり焼き尽くされ時にギルドに帰り

他人の食事をぺロリと平らげながら、
強く、、、更に強くなっていった。
一つむさしさんの名誉のために言っておくと、
ギルドの会員は、ギルド内のものは何を持っていってもいい掟となっている。
つまり、飯を平らげたのは合法だ。
まぁ、、食べようとしていたギルドのメンバが変わりに何を食ったかまでは
気を回さないで欲しい。
そして・・・・今、
Level7になったむさしさんが、そこには居た。
相変わらずロックスターな格好ではあったが

中身は確実に進化していた。
体には戦闘で刻まれた無数の傷があり、
時折唱える魔法も、以前より格段に数が増えていた。
そして今日、新たな敵と出会い、むさしさんのリベンジが始まる。
その日、トロールはいつものように、洞窟の奥でネズミを食し
昼寝をむさぼっていた。
もう何十年もトロールはこうして生きてきた。
この広い洞窟は、トロールの庭であり、世界であった。
扉の向こうには光の差す世界があることは当然知っていたが、
興味の無い事だった。
彼は、そこで飯を食い、昼寝をする。それで十分だったのだ。
これからも続くと、そう思っていた。
これから訪れる不幸など、想像もしていなかった。
異変は 別の種族、インプの悲鳴から始まった。
インプがこちらに飛んでくる途中で、火の玉に包まれ、そのまま動かなくなった。
通路の向こうから、豹が変な格好をして歩いてきていた。
なんだあの布っきれを着た豹は。二足歩行してるし。
わしの洞窟に無断で入ってくるとは。
こらしめてやらんとな。
トロールは豹へ詰め寄ると、そのまま腕を振り上げ、殴りつけた。
二足歩行の豹は驚いた表情を浮かべ、手にもったナイフで応戦してきた。
しかし、長く伸びたトロールの体毛の奥の皮膚には届かない。
そんな刃物でわしを傷つけることはできんわ。
もう一発、二発と腕を振り上げ、豹の体へこぶしを叩き込む。
豹は
K−1のボブ・サップのように、ものすごく痛そうな顔をすると背を向けて洞窟の入り口へと逃げ出した。
おいおい待てよ。
逃げていくときに
空の瓶を落としたぞ、あいつ。
トロールは瓶を拾うと一目散に逃げる豹を追いかけた。
賢明な読者諸氏はもうお分かりだろうが、それは
ポーションの空き瓶だった。
しかし文明社会を知らないトロールにそれをわからせるには無理があった。
トロールは豹を追いかけ、洞窟の外までも出た。
幸い、太陽は身を潜め、輝く星々がトロールを迎えてくれた。
豹は遠くに見える壁のようなものの方へ走っていく。
まったく、せっかちな奴だ。
トロールは不満そうな表情を浮かべながらも、
走って追いかけた。透明な輝く瓶だ。さぞ大事だろう。
豹の足の速さは丁度トロールと同じくらいであり、
同じ距離を保ったまま、高くそびえる壁の近くまで来た。
そこは街の城壁であった。
豹はその壁の近くで、悪い笑顔を浮かべてこっちを向いた。
悪人顔だな。まぁそんな奴でも落し物は落し物だ。
トロールは豹へと近づいた。

すると・・・、
っ・・・な、なんじゃこりゃぁ!背中に棒が刺さっていた。
後ろを振り返ると、金属を身にまとった奴と、布に身をつつんだ奴が
こちらを睨み付けていた。なんなんだ全く。
わしはお前に用があるんじゃ〜〜!!!

ニヤついている豹に腹が立ってきたが、ここまで来て渡さないのは癪だった。
後ろから剣をもった奴が切りつけてきた。
思わず後ずさると、凹状の城の入り口部分に自分が居る事に気づいた。
逃げ場が無かった。

ちょ・・おま・・・
何故か瓶を届けに来たわしが追い詰められている。
トロールはいつの間にか泣いていた。

更に苛烈になった二人の攻撃に、トロールは成す術が無かった。
体から流れる血はもう止められなさそうだ。
薄れゆく景色の中に、あの豹がいた。
最後の力を振り絞って、手にもった瓶を持ち上げようとして、
・・・そこで、トロールの意識は途切れた。

後日、ご機嫌な顔をしたむさしさんが、
街の住人にこんなことを言ってるのを見かけた。
『俺さぁ、昔幽霊に追いかけられて逃げ回って、屈辱だったんだよね。
それでさ、鍛えてさ、こないだやっと、トロールを狩ってやったぜ。
ん?トロール強くなかったかって?そりゃ強かったさ、でも俺、強いもん。
リベンジってやつだよね、リベンジ。』
子悪党むさし。いつになったら本当に強くなるのだ。